fam.I
連綿と刺し継がれた模様、伝統を守りつつ、現代の日常の景色に溶け込むこぎん刺し
青森県津軽に伝わる刺し子の技法のひとつである「こぎん刺し」。
こぎん刺しの歴史は、約300年前までさかのぼります。
その時代、農民は木綿を着ることを禁じられたため、麻布を藍染したものしか身につけることができず、目の粗い麻生地では、津軽地方の冬の寒さを防ぐことができなかったといいます。
そこで農家の女性たちは、温かい空気が少しでも服にこもるよう、麻布に刺し子を施しはじめます。
刺し子を施すことは、すぐに擦り切れてしまう繊細な麻の布の補強の他、ひと針ひと針丁寧に仕上げられた幾何学模様は、衣服の装飾性の向上にもつながりました。
寒くて長い冬の仕事でもあったこぎん刺し。
それは、津軽の女性たちの娯楽のひとつになっていたといわれています。
様々な幾何学模様は、丹念に刺し続ける北国の女性の繊細さと力強さを表しており、制限された生活の中で、「暮らしを愉しむこと」を見つけ出し、このように後世に受け継がれる、日本が誇る伝統工芸となっていきます。
そんなこぎん刺しは、昨今、手芸として人気を集めています。
fam.I (ファムアイ)岩田美穂子さんも、その繊細でいて美しいこぎん刺しの魅力に魅せられたおひとり。
偶然見かけた作品に魅了され、その日のうちに、材料をすべて揃え、独学でこぎん刺しをはじめられます。
ここまで「やってみたい。」と思えたのは、こぎん刺しが初めてだったそう。
「今日まで連綿と刺し継がれた模様、伝統を守りつつ、和により過ぎず、日常にも似合よう制作しています。」とおっしゃる岩田さん。
今では図案の図面もご自身でお引きになって、オリジナルの柄も制作されています。
そんな岩田さんの刺されるこぎん刺しは、モダンで温かでいて、スタイリッシュ。
和が強く出すぎないよう、アイボリーカラーのナチュラルな綿生地に、糸はこぎん用の糸ではなく、光沢のある刺繍糸を使用されています。
どこか北欧の雰囲気も漂うテキスタイルは、現代の暮らしの中にも溶け込んでくれます。
「今でも図案を眺めいる時、こぎん刺しを刺す時、ワクワクしてきます。」とおっしゃる岩田さん。
ひと針ひと針丁寧に仕上げられた岩田さんのこぎん刺しは、長い歴史を持つこぎん刺しに対する敬意や想いも感じることもできます。
こぎん刺しの歴史に触れる中で、「暮らしを愉しむことで豊かになる。」ということは、昔も今も、いつの時代も変わらないのだなと感じます。
暮らしを愉しむ想いを引き継いだ岩田さんのこぎん刺しで、是非皆様の毎日の暮らしを彩っていただけたと思います。