長町香奈子
柔らかで温かい淡いブルーを纏う、景色を愉しむうつわ
奈良県葛城の工房にて作陶されている長町香奈子さん。
昔ながらの呉須という青い顔料を用いて制作されています。
高校時代、「将来は美術に関わる仕事がしたい」と思い、美術専科のある大阪教育大学に進学。
そこで陶芸と出会い、粘土という素材自体の特性や様々な技法、焼成での変化が面白く、用途は無くても、粘土の持つ表情、色や質感の美しさを表現すること自体に惹かれ、大学院にも進み、制作を続けられます。
当時はうつわは作らず、立体造形の作品ばかり作っておられたそう。
卒業後は、美術やものづくりの楽しさを伝える仕事に就きたいと、中学校の美術教員として3年間勤務。
しかし、次第にものをつくることを仕事にしたいと考えるようになり、教員を退職し、技術を身につけるため、京都にある陶芸の専門学校に通われます。
学校で専門的な技術を一から学び直すことで、うつわをつくる楽しさを知り、「うつわを使うということ」へ関心を持つようになられたとおっしゃいます。
その後ご縁のあった京都にある楽焼きの窯元で、茶道具を作る仕事を5年ほど続けられます。
手に持ったときの重さや口に触れたときの感触など、「使う」ことへの心地よさを考えることは、抹茶碗をつくるときに窯元の先生からよく教わったことなのだそうです。
「使うときの心地よさを考えながら、うつわの景色である色や質感の美しさ、持つ雰囲気、佇まいを大切にしたものづくりがしたい。」
そうおっしゃる長町さんのうつわの最大の魅力は、なんといってもやはりその表情。
陶芸作品には、「景色を愉しむ」という言葉がありますが、長町さんの作品はまさにその言葉がぴったり。
安南手から着想を得てつくられた薄呉須釉や、象嵌やマスキング技法を用いて装飾を施したもの。
それぞれの作品の工程をお伺いする中で、「普通に絵付けしても良いのですが、ニュアンスが気に入ってて。」と、作品によって、絵付けの表現技法を変えられているということに驚かされ、うつわが持つ「佇む雰囲気」を大切に、とことんこだわってものづくりされている方なんだなと感じます。
窯元での仕事や茶道を通じて、道具やうつわを育てる楽しみやうつわの表情を豊かにする技術を学び、仕事と並行して釉薬の調合を学ぶ研究所へ通ったり、自宅で色んな技法や釉薬を試すことで、自身の納得いくうつわの表情づくりを研究してこられた長町さん。
現在制作されている青の濃淡の表情に関しては、その時々で違いが出るので、自分が心地よいと思う色味に全体が落ち着くように、焼成時間などを微調整しながら制作されているとおっしゃいます。
長町さんが表現される、移ろうような柔らかで優しいニュアンスの景色は、実在する自然の風景のような心地よさにも似ていて。
手にすると、温かさが伝わってくるようで、なんだかとても落ち着きます。
景色が映えるシンプルですっきりとした造形もまた、毎日使ううつわとして、私たちの暮らしに、温かく寄り添ってくれます。
ぜひ長町さんのうつわの景色を感じとりながら、穏やかな気持ちでお使いいただけたらと思います。