片瀬有美子
緊張感の先に広がる、色彩豊かな、美しい世界が魅力のうつわ
北アルプスが一望できる信州安曇野の地で、ガラス作家であるご主人とアトリエ「glass & porcelain studio touca」を構えていらっしゃる片瀬さん。
19世紀イギリスで生まれた陶芸技法 「mocha ware(モカウェア)」を応用した作品を、日々作陶されています
片瀬さん独自の技法「moca(モカ)」。
本来は土物の素地に化粧土をかけた後、モカウェアを施すのですが、片瀬さんは、素材を磁土に置き換えて制作されています。
石膏型に磁土の泥を流し入れ、肉厚がついた頃に排泥して、間髪入れず、絵具を筆で落とし、泥に模様を這わせていきます。
泥が乾くと絵具が広がらないため、それまでの約1分間、精神を集中させて、模様を施されているとのこと。
あえて透光性のある磁土を用いることで、モカウェア特有の有機的な模様が、より透明感、生命感、幻想感を纏い、美しい世界となって、うつわの中で広がります。
片瀬さんが、作品を作るうえで、一番大切にしていることは、「透明感」。
従来の土物でなく、磁土で表現すること、そして3、4色の絵具を用いることで、目の細かい磁土の表面を緩やかに広がった絵具が、水彩画のようなグラデーションを織りなし、見事にその「透明感」を表現されています。
安曇野の澄んだ美しい空気と片瀬さんの透明感のある凛とした作風は、リンクします。
自然の中には美しい色彩を持つ生き物や植物がたくさん存在し、永遠の憧れで、モカウェアの現象を利用しながら、そのような世界を表現した焼き物を作っていきたいとおっしゃる片瀬さん。
作家もののうつわは、唯一無二との出会いが魅力のひとつですが、その中でも特に片瀬さんの作られるうつわは、ご本人も模様の色、大体の大きさ、配置くらいしかコントロールできないとおっしゃっているほど、一つとして同じ模様はございません。
片瀬さんの「moca(モカ)」の色彩の美しさは、目の前に広がっている空の色や、草木の色が、今、その瞬間のものでしかない自然界が偶然に織りなす普遍的な美しさと通ずるものを感じます。
そんな片瀬さんがつくられる自分だけのうつわの景色を、皆様にも是非愉しんでいただけたらと思っております。